11、手紙

11-3、『集古浪華帖』道風書状

 

前回の近衛家煕「書状」のなかで触れた『集古浪華帖』といえば、、、
現在はその所在を知ることのできない小野道風(894-966)の書状が11通収められています。

 

 

 


『集古浪華帖第二』小野道風消息

 

これ以外のほとんどの筆跡が真跡であることから、この11通についても道風の真跡をもとにして復刻した可能性が高いと考えられています。これは道風の消息の姿を知ることができる唯一のものとして大変貴重です。

道風の書というと、主に行書体で重厚な筆致の「屏風土代」や楷、行、草書を織り交ぜ、大小の変化をつけながら自由奔放に書き進められる「玉泉帖」などが印象的です。それらと比較するとこの消息は、草書や仮名を用いて落ち着いた趣があり、その風が藤原佐理「頭弁帖」と似ています。自然な書き振りが手紙ならではの味わいなのでしょう。

道風自筆の遺墨は漢字だけで、仮名が見られるのはこれだけです。所々に仮名の書き振りが確認できます。

 

道風消息の真筆は遺っていないため、複製ではあるものの、日常的に書かれた道風の筆跡を理解する上で貴重な資料と言えます。

 

 

江戸時代、文政2(1819)年に刊行された『集古浪華帖』は、ほぼ原寸大の超大型木版本。
その精度の高さは、空海「風信帖」を見れば一目瞭然でしょう。

 

 

『集古浪華帖第二』風信帖

 

渇筆の繊細な線までも丁寧に再現されています。
篠崎小竹が跋文を寄せ、手放しに褒めているように精巧な仕上がりです。

 

これを編集したのが書家、篆刻家として知られる森川竹窓(1763-1830)です。
名筆があると聞けば日本中どこへでも飛んで行き、模写をしたといいます。この『集古浪華帖』に収められる44件は、竹窓が模写した中から厳選したものなのです。書の腕前はもちろんのこと、鑑識眼の高さを知ると同時に、精妙な模刻本によって当時の伝存状況を伝える資料としても価値の高いものです。

 

 

通常は和綴じの冊子本ですが、当館所蔵の『集古浪華帖』は折帖仕立てになっています。虫喰いなどの損傷が少なく、状態のよいものです。(田村彩華)

 

【掲載作品】成田山書道美術館蔵
『集古浪華帖』 5帖 森川竹窓編集 文政2(1819)年刊行