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  • 29、今日の書

    29-1、石飛博光「富士山」、永守蒼穹「直後黒い塊」、吉澤鐵之「東日本大震災十二首屏風」

    新型コロナウイルスの影響で年内休館することが決定し、29週にわたって収蔵品を紹介してきました。最後は「今日の書」です。
    当館は戦後作家のコレクションが充実しており、現在活躍されている作家の作品も収蔵しています。その多くが展覧会の出品作で、その作家にとって代表作となるものや受賞作が多く含まれます。これらの作品はこの先昭和、平成、令和時代の書として残っていくことでしょう。

    今回は2011年東日本大震災を背景に制作された作品を取り上げます。

     

     

     

     

     

    平成23(2011)年毎日芸術賞を受賞した石飛博光先生の作品です。震災の起こった年に開催された古稀の個展に出品した縦2m40㎝×横16mにもなる超大作。その個展のテーマは「未来におくる」。大震災の影響で準備していた構想を変更し、自然や大地の恵み、大切な命を意識した展覧会となりました。震災直後、草野心平「富士山」の詩をその恐怖から逃れようとするかのように、取り払うように必死で書いたといいます。復興を願う気持ちが原動力になったのでしょう。

     

     

    永守蒼穹先生の「直後黒い塊」は、震災の年の毎日書道展文部科学大臣賞受賞作です。
    大震災の津波の報道から被災地の状況を表現したもので、今日の言葉でこの時代の表現で書き残さなければならないものを形にしました。その瞬間でしか書けないもので、震災の記録としても後世に残すべき作品です。

     

     

     

    吉澤鐵之先生の「東日本大震災十二首屏風」は、地震が起きて1年半の間に目にした景色と自らの心情を12首の詩に賦し、出来合いの六曲一双屏風に書いています。平成25(2013)年の個展のメイン作として出品されました。
    「自分で作った詩を書く楽しみはこの上無く」というように、自作の漢詩を書作品として多く発表しています。米芾などの宋人や董其昌あたりを継ぐ古典的要素を含んだ独自の風で、震災の切実な体験がその書に込められています。

     

    これらは今の時代を生きた作家が、必然的に作品にしたものといえるでしょう。時代を反映する作品です。(田村彩華)

     

    【掲載作品】成田山書道美術館蔵
    石飛博光「富士山」平成23年毎日芸術賞 紙本墨書 一面 240.0×1653.0㎝
    永守蒼穹「直後黒い塊」平成23年毎日書道展文部科学大臣賞 紙本墨書 一面 116.0×112.0㎝
    吉澤鐵之「東日本大震災十二首屏風」平成25年個展 金箔紙墨書 六曲一双 各68.0×372.0㎝

  • 29、今日の書

    29-2、漢字の書

    新型コロナの影響で、多くの公募展が中止となり、現代を彩る先生方の作品を拝見する機会も少なくなっていると思います。そこで今回は当館が一昨年開催した「明治150年の書道」展から漢字の書をご紹介したいと思います。

     

    〇尾崎邑鵬先生 杜少陵詩

     

    ※1

     

    平成5年の日本芸術院賞を受賞された御作です。墨の潤渇と余白の絶妙のバランスが印象に残ります。

     

    〇杭迫柏樹先生 桃李不言

     

    ※2

     

    平成20年の日展に出品された御作です。生命力を感じる運筆が魅力的です。

     

     

    〇新井光風先生 老子儉欲

     

    ※3

     

    平成25年の個展に出品された御作です。一字一字に生命が宿ったような印象があります。

    大変お待たせしましたが、新型コロナ流行の影響で延期となっていた新井先生の展覧会は1月1日より開催します。こちらの御作も陳列させていただきます。会期は2月21日までございますので、ご無理のない日程でのご来館をお願い致します。

     

    展示場風景1

     

    展示場風景2

     

    展覧準備も整いました。

     

     

    〇樽本樹邨先生 應詔讌曲水詩

     

    ※4

     

    平成20年の日展文部科学大臣賞を受賞された御作です。清新な気が辺りに満ちているようです。

     

    〇吉川蕉仙先生 王羲之蘭亭集詩

     

    ※5

     

    平成27年の個展にご出品された御作です。内に迫る心情が無言で表出しているかのような気を感じます。

     

     

    〇髙木聖雨先生 駿歩

     

    ※6

     

    平成27年の日展文部科学大臣賞を受賞された御作です。文字と余白、落款に至る構成の美が際立っています。先般、日本芸術院会員となられて益々のご活躍が楽しみです。

     

    この半年間、数々の収蔵品と向き合い、改めて作品と対話することが出来たと感じています。皆様と会場でお会いできます日を楽しみにしています。(山﨑亮)

     

    【掲載収蔵作品】

    ※1、尾崎邑鵬 杜少陵詩 1面 240.0㎝×81.0㎝ 紙本墨書 平成5年日本芸術院賞受賞作 尾崎邑鵬氏寄贈

    ※2、杭迫柏樹 桃李不言 1面 93.5㎝×169.2㎝ 紙本墨書 平成20年日展出品作 杭迫柏樹氏寄贈

    3、新井光風 老子儉欲 4面 各137.4㎝×136.3㎝ 紙本墨書 平成25年新井光風作品展出品作 新井光風氏寄贈

    4、樽本樹邨 應詔讌曲水詩 1面 164.8㎝×83.6㎝ 紙本墨書 平成20年日展文部科学大臣賞受賞作 樽本樹邨氏寄贈

    5、吉川蕉仙 王羲之蘭亭集詩 四曲半双屏風 各169.7cm×69.0㎝ 紙本墨書 平成27年個展出品作 吉川蕉仙氏寄贈

    6、髙木聖雨 駿歩 1面 92.6㎝×157.8㎝ 紙本墨書 平成27年日展文部科学大臣賞受賞作 髙木聖雨氏寄贈

  • 29、今日の書

    29-3、今日の仮名

    日本書道史の上で最も大きな様式の転換期は、戦後の書道展の展開にあります。広い会場に不特定多数の観覧者を惹きつけるためには、造形的に強い印象を与えることが求められました。今日もその流れを汲む一方で、技法の深化が進んでいます。作家一人ひとりの趣向は書きぶりや線質、内容に表れ、用具用材や表装に創意工夫が見られます。そうした表現性における振幅の大きさを特に物語るのが、仮名の世界ではないでしょうか。

     

    日比野光鳳 「四季」平成22年 現代書道二十人展

     

    桜 さくら花ゆめかうつゝか白雲の たえてつれなき峰の春風… (部分)

     

     

     

    井茂圭洞  「富士山」 平成27年 一東書道会全国書道展

     

    …明日のほる富士のたかねをあふきつゝ 裾野の湖にふねこきあそふ… (部分)

     

     

     

    黒田賢一  「蛙」 平成29年 古稀個展

    かはづ鳴く甘南備河に影見えて今か咲くらむ山吹の花

     

     

     (部分)

     

     

    高木厚人  「吉野山」 平成30年 改組新第五回日展内閣総理大臣賞

     

    何となく春になりぬときく日よりこゝろにかゝるみ吉野の山
    山さむみ花さくべくもなかりけり… (部分)

     

     

     

    土橋靖子 「万葉二十二首貼り交ぜ屏風」 平成28年 個展

     

    こもりくの泊瀬の山はいろづきぬしぐれの雨はふりにけらしも…(右上)

     

     

     

    作品を通して「今日の仮名」の深化を実感していただけたでしょうか。展覧会によって作品の形態が固定化しつつある今日ですが、そうなると表現は作家の鍛錬によって洗練された表現が多く生まれています。

     

    また、現代書に位置付けられる仮名の魅力は、作家それぞれの個性にあるようです。あえて装飾料紙を使わずに仮名の字そのものを追究する姿勢を貫いた今関脩竹(8でご紹介)や、料紙に魅せられ紙づくりにはじまり表具の細部にわたり意匠を凝らした桑田笹舟(6でご紹介)、何巻もの巻子本を一具とする大作を遺した小山やす子(27でご紹介)など、その世界は一括りにできません。

     

    休館中のブログは今回で最終回となり、令和3年元日より展覧会を再開いたします。

     

    書には、実物を見ることでしか味わえない魅力があります。書き手のかすかな手のふるえ、絶妙な墨の色あい、文字の書かれた本紙だけでなく、作品全体の表装や装丁、大きさなど…印刷物では伝えられない、実物ならではの魅力を、会場でぜひ実感していただけたらと思います。(谷本真里)

     

    【所蔵掲載作品】
    日比野光鳳 「四季」平成22年 現代書道二十人展 紙本墨書 四曲半双 60.0×244.0
    井茂圭洞 「富士山」平成27年 一東書道会全国書道展 紙本墨書 一面 90.2×181.5
    黒田賢一 「蛙」平成29年 古稀個展 紙本墨書 二曲半双 185.0×176.0
    高木厚人 「吉野山」平成30年 改組新第五回日展内閣総理大臣賞 紙本墨書 一面 69.5×232.0
    土橋靖子 「万葉二十二首貼り交ぜ屏風」平成28年 個展 彩箋墨書 四曲一双 27.0×53.0×22枚